絶妙なタイミング
先月の21日、最終プログラムで、アカデミー賞長編アニメーション映画賞を受賞した「ハッピーフィート」見て来ました。
予告編だけ見てると、楽しく歌って踊ってという映画だが、ストーリーの展開にビックリさせられる。
これが、受賞の決め手かな?
とりあえず、話の行方にビックリしてしまったが、別な思いで感激もしてしまった。
それは、10年前の学生たちが卒業制作アニメーション「ふるさと あるトドの旅」で発表したテーマや描き方にあまりにも似て、重なって見えてしまったから。
思わず新学期の講師会で、アニメーションを担当していただく先生達に「ふるさと…」を見せてしまいました。
当時、指導に関わってくれた、恩師・岡部先生とも、別件で顔を会わすなり、「そやろ、そやろ」って確かめあったぐらい。
ほんでもってこれこそ絶妙のタイミングというのは、当時の学生たち、今頃何してるやろって想っていた矢先、その「ふるさと あるトドの旅」の原作者である立部龍彦くんが、ひょっこり訪ねて来てくれたんです。

「ハッピーフィート」は
落ちこぼれペンギンが、仲間達に受け入れられなかった彼の特技で、食料危機のペンギン世界を救う話。すごく簡単に言ってしまうとね。
「みにくいあひるの子」や「ベイブ」に「チキンリトル」、ほんでもって「世界に一つだけの花」的なテーマって、ハリウッド映画に最近目につくけど、個性を大切にするアメリカらしいストーリー。
ペンギンたちの歌や踊りは楽しい。ストーリーもアメリカ人好み。で、それだけで「カーズ」を抑えて受賞するのかな?
じゃあ、CGの技術で選ばれたの?
ペンギンの毛のふわふわさ。タップダンスのモーションキャプチャー。
素晴しかったけど、感動的か?
これで第79回アカデミー賞の長編アニメ部門の1等賞???????
まだ何か仕掛けがあるのかな
って見て行くと、主人公が旅に出てから、様子がガラッと変わリはじめる…
以下ネタばれ注意
物語は、人間たちの漁獲・濫獲によるペンギンたちの食料危機へとテーマが変化していく。
ペンギンは人間の世界までやって来て、人間文明に出会い、人類に「あなた達のおかげで、我々はつらい思いをしてるんです」というメッセージを発する。
演出的には、メッセージを直に訴えるんではなく、仲間たちから疎外された彼の特技のタップで注目させ、ペンギンの存在をアピール。結果、ペンギンたちを救うカタチになる。
しかし、
人類の驕りへの警鐘ははいいが、魚の濫獲よりももっと大きなことがあるのではと首をかしげた。
飢えに苦しむペンギンたちの描写が足りなくて、切羽詰まった状況が伝わって来ない。
何匹いてるねん! っていうぐらいのペンギンの大群を見せられてしまって、よけいに、飢えたイメージは遠のいてしまった。
有り余るほどの広大な土地で生活しているアメリカ人には、飢餓に苦しむというイメージは想像できないのか。
「ハッピーフィート」を見た翌日だったか
テレビ報道番組で、写真家・藤原 幸一さんからの報告だったろうか? 地球温暖化によるペンギンの生活現場の激変を見た。
ショッキングだった。
「ハッピーフィート」の青白く明るく美しい南極の氷の大地のイメージからはほど遠いものだった。
むき出しの土も驚きだったが、とけた氷の中から現れた人間が残して行った金属のゴミがペンギンたちの行くてを阻み、彼らを傷だらけ、血まみれにしている。痛々しい。
「ハッピーフィート」の悲痛な叫びも、この1枚の写真のメッセージにかなわない。
ただ「ハッピーフィート」にも
人間文明の存在を恐ろしく見せる画面がある。
鉄のかたまりの巨大な船や工場は、ちっぽけなペンギンたちや、明るいペンギンの国とは対照的。
画面のトーンの180度の転換は印象的。
水族館のガラスに囲まれた閉鎖された空間の不自由さも良い。
ガラスの向こうのモノ言わぬ人間たちの亡霊のような顔も不気味。(フットライトのライティングがよけいにそう感じさせる)
でも、魚の濫獲のテーマにつながりにくい。
ペンギンのタップに感動した人々が、氷の向こうの世界にいるペンギンたちの存在に気づき、ヘリコプターでやってくるのだが、氷のてっぺんで滑ったりして間抜け。
(ヘリコプター登場の重量感はすごかったよ。)
前半の楽しさと、後半のシリアスさが上手くかみ合ってないのでは?
後半ありきの映画だったのなら、前半の楽しい部分はもっと割愛すればどうだったのだろう。
まわりの感想を耳にすると、どちらかというと、可愛い、歌って踊っての主人公の成長ストーリーでよかったのに派が圧倒的に多い。
これってやっぱり、前半と後半が上手くかみ合っていないから?
そこで「ふるさと あるトドの旅」だが
テーマと、そのことについてやってることとのバランスは、「ハッピーフィート」よりも、学生たちが作った作品の方が勝っているぞと感激した。
もちろん、たかだか2年間アニメーションの勉強をしただけの若者たち30人足らずのテクニック。最高の技術者が何百人も集まって、時間とお金をかけて、最新のテクノロジーを取り入れて(3Dやモーションキャプチャー)造った作品と比べ合うのはできない話し。
でも、絶対に「トド」の方が素敵だよ。
「ハッピーフィート」のペンギン達の食糧危機に対して、それをも含む、人間の地球環境や同じ地球に生存している生き物達に対する無関心さへのメッセージ。
「ハッピーフィート」とは違って、「人間」を直接画面に登場させずに、船、飛行機、人間が海に放った人間が作った地球のゴミや汚物で「人間」を表現した。
「ハッピーフィート」のサブキャラクターたち(アザラシやペンギンを襲う鳥たち、シャチ)も秀逸だったが、「トド」も負けていない。
サメにクジラにウミガメ、タツノオトシゴ、カモメ、イソギンチャク…
イワトビペンギンの怪しい教祖が首にはまって抜けなくなったプラスチック製の、ビール缶か何かをつなぎ止めておく道具? あれ、分かりにくい。
「トド」の7UPの空き缶、人が捨てた浮き輪の方が分かりやすいじゃん。
「ハッピーフィート」の素晴らしい見せ場のひとつに、ジェットコースターのごとく、アザラシから逃げ回るシーンがある。延々と続く氷上の滑走だが、スピード感と迫力は最高。これこそは大きなスクリーンで観るもの。音響もすごい。
追っかけシーンなら「トド」も負けてませんよ。サメに追いかけられるところはやってることが同じです。学生レベルでは最高級でしょう。
たて構図で襲われるところは、3Dにも負けてません。
「ハッピーフィート」の素晴らしい見せ場のもうひとつに、ペンギンたちが、魚が少なくなった原因を確かめに旅に出るシーンがあります。
吹きすさぶブリザードの中を進むペンギンたちの描写は素晴らしい。大きなスクリーンにロングショット。画面いっぱいに横殴りの吹雪。そんな中を、ちっぽけなペンギンたちが進んでいく。
でも、残念なのは
人間の世界にたどり着くまでの、あの、大変な距離感が、帰ってくるときは一瞬で、すごく軽く感じる。あの距離感のなさは、人間とペンギン(生き物)たちの微妙な距離を感じさせなくしているように思う。
それを思うと「トド」の、人間の世界を見て怖くなって帰ってくる、幾日も泳ぎ続けたというカットの連続って大切だと思った。
「トド」のラストのナレーション、いいでしょ?
「やっぱりここがスキです。だってトドだから」
これは、人間が「地球が好きです。地球に生きる生き物なんだから」と言う意味です。
もちろん、地球に生きる生き物は人間だけじゃなく、植物、動物、昆虫、魚…すべてです。
だから、地球を大切にしなければならないのです。
このテーマは、ぜったい、ハッピーフィートよりも大きなテーマでしょう?
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